読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ランチにビール

愛顧、お願いします

『ソンブレロ落下す―ある日本小説』リチャード・ブローティガン:ソンブレロってなに?

★★★★☆ 70年代 アメリカ

f:id:psy22thou5:20170225193823j:plain

ソンブレロってなに?

『ホークライン家の怪物』(1974年)に引き続き、R・ブローティガンの長編8作目、ソンブレロ落下す―ある日本小説』(1976)です。神保町の古本屋さんで手に入れた一冊です。

思うに、ブローティガンはプロットとか構成を意識せずに小説を書いた作家なのでは、と推察するが、その傾向が顕著な一作である。じっくり練って話を作るような作家とはとても思えない。

 

物語は、日本人の恋人に振られたユーモア作家、その元恋人の日本人・雪子、そしてユーモア作家が書いたボツ原稿、という3つのストーリーが並行して進展する。ユーモア作家は延々と振られたことにくよくよしており、雪子は最初から最後まで眠っている。ボツ原稿は筆者の手を離れて勝手に話は進展し、空から落ちてきたソンブレロを巡ってくだらないスラップスティックが展開される。掴みどころのない話だ。

しかし、ギラギラとしたブローティガン節は健在だ。振られたユーモア作家が、することもなく、卵についてあーだこーだと妄想する場面は名シーン。

 この家に卵があったためしは、いまだかつて一度もなかった。彼は卵を食べるのは好きだったが、家に卵を置いておくことはいやだった。

(~略~)

 それにもかかわらず、彼は腰を上げて台所へ卵を探しに行った。卵などないのは承知の上で。少しは時間つぶしになるからだ。つまるところ、彼は失恋していたのだから、することといったらそれくらいしかなかったのだ。

 冷蔵庫の扉を開けて、内を見る。

「卵はない」と彼はいった。

 

ちなみにソンブレロとはメキシコ人がかぶってる、つばが広い帽子のことです。一般的に空から落ちてくることはありません。 

 

f:id:psy22thou5:20170225213058j:plain

谷崎潤一郎に捧げられた日本小説

本書の始めには、この小説を谷崎潤一郎に捧げるとの献辞がある。著作の訳者であり、友人でもあった藤本和子さんによる伝記『リチャード・ブローティガン』では、彼の谷崎潤一郎愛について語られていた……ような気がする。

学がないもので、恥ずかしながら谷崎潤一郎は未読ですが、「さぞエロいんだろうな……!」とワクワクしながら心して読むと、拍子抜けします。全然エロくないです。

エロス要因として駆り出された山口小夜子もびっくりですわ。

 

ユーモア作家が、元カノの髪の毛を見つけ、それを不意に落としたことでめちゃくちゃパニクる場面がある。これに関して作者は、「一本の髪の毛は官能のメタファーや!」みたいなことを言ってるそうだが、もう意味不明すぎて笑える。そういうぶっ飛んだ発想こそ、ブローティガンという男の魅力なのだが……。

 

 

f:id:psy22thou5:20170225205641j:plain

はやく復刊してくれ!!(再)

ブローティガン小説の面白さというのは、「そこそこ面白い場面、文章が、延々と続く」ところにあると思う。起伏があってダイナミックな話ではないが、じわじわと体の芯まで温めてくれる、蜂蜜ジンジャードリンクみたいな小説だ。映画で言うと、アキ・カウリスマキジム・ジャームッシュあたりが近いか。

こういうの好きな人、きっといると思う。ちゃんと売れるかって? それは僕も自信がない……。

 

 

 

評価:4/5点 ★★★★☆

フラれた男はこれを読め!

初心者オススメ度:3/5 ★★★☆☆

ややマニアック。好き嫌いが分かれそう。