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ランチにビール

愛顧、お願いします

『「本をつくる」という仕事』稲泉 連:一筋縄じゃいかない製本・出版の世界

番外編

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一筋縄じゃいかない製本・出版の世界

筑摩書房の新刊です。

作家や編集者ではなく、製本・印刷・製紙といった視点から「本」というものを捉えるのは面白い試み。本が好き➡出版社就職、と思い込んでる就活生はぜひ一度目を通すべき一冊。

本に携わる仕事は、実はこんなにたくさんある。

 

 

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細部に神宿りすぎ

本を作るという作業はすごく地味だ。気付くか気付かないかの瑣末な違いをあーでもないこーでもないと推敲し、ようやく完成する。

第1章では、大日本印刷秀英体フォントのリニューアルプロジェクト、「平成の大改刻」について語られている。フォントの品質を上げて一般販売するために、12万字以上もの文字をつくるという、気が遠くなるようなプロジェクトだ。

プロジェクトチームが書類をちらかして、他部署から煙たがられている様子なんかはすごく面白い。

ぼくもタイポグラフィーは好きですが欧文書体専門でして、和文フォントに関しては恥ずかしながら「違いがわからない」と言わざるをえない。特徴的な書体はともかく、一般的な明朝体とか「どれも一緒じゃね??」と思ってしまう。

そんななか、7年もかけて行われた「平成の大改刻」の凄まじさったらない。言ってしまえば、どこまでも抽象的・感覚的な世界だ。「なんか違う」「活き活きとしてない」と言われれば、「もっとそれっぽい」「もっと活き活きとした」デザインになるよう試行錯誤する。何気なく読んでいる一文字一文字に、職人のこだわりが詰まっていると思えば、なかなかジーンとくる話だ。

 

校閲を取り上げた第4章も面白い。去年は『校閲ガール』のドラマ化もあって、地味に注目されてる(かも知れない)出版社の校閲部門。作家というのも人間なので、間違えや矛盾は避けられない。そこで必要となってくるのが第三者の視点、校閲だ。

第4章では新潮社の歴史や、創設者がかつて校閲をやっていた話なども加わり、非常に読み応えがある。すごくクールな企業だ。いぶし銀のオッサンたちがタバコをくゆらせてゴリゴリ働く姿が目に浮かんでくる。石原さとみのイの字もない。

 

 

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海外文学を扱う仕事

ガイブン読みとして外せないのが、版権エージェントというマニアックな仕事を取り上げた第7章。これを目当てに買ったと言っても過言ではない。

国内で流通する翻訳本の、実に6割のシェアを持つというぶっ飛んだエージェント会社タトル・モリを中心に、その業界について語られる。国内の作家とは違い、言葉も通じない、原稿も読めない海外の作家を相手にビジネスをするには、その仲介となる版権エージェントが不可欠だ。

海外を飛び回り商談を交える様は、まさに文学界の商社マン。彼らが「仕入れ」てきた作品が出版社の手に回り、翻訳・編集を経て一冊の商品となる。なかなかにダイナミックな話だ。風前の灯である海外文学を支えているのは、こういう人たちなんだな、と思う。

 

 

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出版業界が斜陽産業なのは言うまでもない。雲行きは最悪、回復の見込み無しだ。業界地図にも書いてあったよ。

そんな「本」の世界で働く人たちは、やはりどこか変わっている。仕事に対するこだわりとプライド、「出版はヤバいよ」と自虐できるだけのユーモアがある。彼らの努力が、いつの日か出版業界の夜明けをもたらすことを願ってやまない。